空調機・冷機 耳より話~省エネ・不具合対策~

夏場は要注意!空調機(エアコン)・冷機の高圧カット対策4選

業務用空調機(エアコン)・冷機向け外付け熱交換器『BigCon』業務用空調機(エアコン)・冷機向け外付け熱交換器『BigCon』
本コラムは業務用空調機(主にパッケージエアコン)、業務用冷凍機・冷蔵機(コンデンシングユニットと呼ばれる室外機が存在するもの)を対象として執筆しております。ビルマルやチラーについても空冷式であれば概ね対象となりますが、ホームエアコンは想定しておりませんのでご了承ください。
目次

1. 高圧カット(高圧圧力異常)の基本事項

1-1. 高圧カットとは

 空調機(エアコン)・冷凍機・チラーなどに頻出するトラブルの一つとして、高圧カット(高圧圧力異常やピークカットとも)があります。
 高圧カットとは室外機から室内機(エアコンやショーケース)へと送られる冷媒(高圧側)に対する圧力が過剰に高まり、安全のため緊急停止(異常停止)を起こすトラブルになりますが、この説明ですぐに理解できる方は少ないと思います。

圧力計(高圧)

 そこで今回は高圧カット発生のメカニズム高圧カットに至る原因高圧カットの対策法まで詳しくご紹介します。
 本コラムが高圧カット解消の参考となれば幸いです。


 なお高圧カットとおぼしき緊急停止(異常停止)が発生した場合は、操作パネルなどに表示されるエラーコードを確認してください。
 「高圧 異常」などを意味するエラーコードが表示されていれば、今回の主題である高圧カットで間違いないでしょう。

 各メーカーがHP内にエラーコード対応表やコード検索サービスを用意していますので、インターネットで「(対象機の)メーカー名 エラーコード」のように検索するとすぐに確認が可能です。
{参考:『ダイキンエラーコード|ダイキン工業株式会社』

1-2. 高圧カット発生のメカニズム

 通常高圧カットは冷房運転・冷凍冷蔵運転時に起こりますので、先に冷房運転・冷凍冷蔵運転の原理を簡単にお話しします。

冷房運転・冷凍冷蔵運転のモデル

 空調機・冷機の運転中は冷媒が室内機と室外機の間を循環しています。
 冷媒は熱の運搬役を担っており、(冷房運転・冷凍冷蔵運転では)室内機で熱を受け取り、受け取った熱は室外機で放出しています

 この熱の受け取りや放出は熱交換と呼ばれ、その役割を果たす機材を熱交換器と呼びます。

熱交換器

 熱交換器(空冷式)は折り畳まれた配管と放熱フィンで構成されています。
 熱交換器の配管内を物質が通過する際、フィンのすき間を通過する空気と配管内の物質との間で熱の移動が行なわれる(温度の高い方から低い方へと熱が移動する)ため、この性質を利用し物質の冷却や加熱が行なわれます。
 (内部を冷却するための熱交換器を凝縮器やコンデンサー、内部を加熱するための熱交換器を蒸発器とも呼びます)

 空調機・冷機の室内機と室外機どちらにも熱交換器と送風ファンがペアで備わっています。
 (冷房運転・冷凍冷蔵運転の場合)室内機内ではファンが熱交換器に風を当てており、熱交換器配管内を通過する冷媒よりも熱交換器フィンのすき間を抜ける空気の方が高温であるため、その瞬間空気の熱が冷媒へと移り、冷却された空気はそのまま外へと送り出されます。

 室外機では上部や前面にファンが付いており、中の空気を外へと逃がしています。外に空気が逃げる分、室外機内には空気が入り込みますが、その通り道には熱交換器が置かれており、熱交換器フィンのすき間を抜ける空気よりも熱交換器配管内を通過する冷媒の方が高温のため、その瞬間冷媒の熱が空気へと移り、加熱された空気は室外機から放出されます。

 ところが室外機において冷媒が十分に冷却できるとは限りません。
 例えば室外機周辺が高温の場合、冷媒と空気との温度の差が縮まるため、熱交換は進まなくなります。

 冷媒の冷却が不十分となると、冷媒は室内機で十分に熱を受け取れなくなるため、機器は冷媒への圧力を高めます
 これは冷媒が高圧な状態ほど、熱の運搬能力が高まるためです。

冷媒イメージ

 ただし高められる冷媒への圧力には安全面から限界があり、設備の設計上危険な圧力に達したとき、機器は異常停止(強制停止)します。
 これが高圧カットの仕組みです。(室外機の停止に合わせて接続する全ての室内機が停止します)


 冷媒の冷却が不十分となる原因は以下の4種類となります。

①室外機周辺の高温
②室外機の排熱の再吸入
③室内の過度な温度上昇
④機器の能力不足

 各原因の詳細は2章、対策は3章にてご紹介します。
 また例外的な高圧カットが存在するので、そちらは2-5章にてご紹介します。


 高圧カットは「夏期はしょっちゅう止まる」~「夏期の特に暑い日中のみ止まる」のように被害の程度が様々ですが、冷媒への圧力が上限に違い状態で運転し続けるだけでも圧縮機には大きな負担となります

 圧縮機は非常に高額で、故障してしまうと機器一式に近い出費となってしまいますので、早めの対処をお勧めします。

 同時に高圧カットに至らずとも冷えが悪い際は、高圧カットと同様の原因が潜んでいる可能性があります。異常停止寸前の際は冷えなくなりますし、インバーター機の場合は停止しないよう自身が運転を制御することもあります。(空調機は現在ほぼ全てインバーター機)
 合わせて下記もご参考にされてください。

{参考:『空調機(エアコン)が冷えない原因6選とその対策-空調機・冷機 耳より話 |株式会社SHOTEC』

2. 高圧カット発生の原因4種類

2-1. 原因①室外機周辺の高温

 まずは室外機周辺の高温が高圧カット(冷媒の冷却不足)に至るメカニズムについて、詳しくお話しします。

 室外機には吸込口吹出口があり、室外機はこれらを通して外部の空気を取り入れ、放出しています。

 吸込口とは黒い網のような部分になり、室外機の横や背面に備わっています。この黒い網の向こう側に熱交換器(=凝縮器=コンデンサー)があります。

吸込口

 吹出口は上や前面に備わっており、運転中は風が出るため手をかざすとすぐ分かります。(熱い風が吹き出していることもあるため注意してください)

吹出口

 夏期は取り込まれる空気も高温となるため、これが高圧カットの主要因と考えられがちですが、猛暑だけで高圧カットに至ることは稀です
 「室外機に直射日光が当たる」「コンクリートのような熱を持つ地面の上に室外機が設置されている」などのほか、以降ご紹介する原因と複合した際に高圧カットの懸念が高まります。

日射しが直接照りつける環境は夏場の温度が40℃を超えます

2-2. 原因②ショートサーキット(室外機の排熱の再吸入)

 室外機周辺に熱風を発生させる機器がありそれを室外機が吸い込んでしまう、もしくは室外機自身が発生する熱風を吸い込んでしまう、このような現象をショートサーキットと呼びます。
 ショートサーキットは重度の高圧カットに至りやすいため要注意です。

室外機周辺のスペースが狭いと温風(排熱)を吸い込んでしまいます

 具体的には室外機周囲の壁や障害物により排熱が室外機吸込口へと誘導されているケース室外機の周囲が囲まれ風の通りがなく排熱が溜まってしまうケースなどが見かけられます。

2-3. 原因③室内の過度な温度上昇

 冷凍機やチラーのような低温を実現する機器は室内の温度上昇に特に敏感です。
 冷やす対象の温度が数℃上がるだけでも影響を受けますし、特に問題となるケースが外気の侵入です

 通常であれば問題なく運転できていたとしても、ちょっとした室内環境の変化で(温度上昇で)室外機へと送られる熱量が一気に増え、“パンク”してしまうこともあります。

2-4. 原因④機器の能力不足

 ほとんどの場合機器の選定は適切に行なわれますが、想像を超えた負荷が掛かることや環境が悪化することもあります。
 
 能力には二つの視点があり、一つはその機器がどれだけ一度に冷やせるか(冷房・冷蔵冷凍能力)という能力で、室外機内の圧縮機出力がその能力値となります。圧縮機出力が高い場合は稀にしか稼働しないため稼働率(電源オンの間の運転割合)は低くなりやすく、圧縮機出力が低い場合は稼働率が100%近くなり高圧も上がりやすくなります。

 もう一つはどれだけ室外機で熱を放出できるかという能力(凝縮能力)で、大まかに室外機内の熱交換器(凝縮器=コンデンサー)の大きさが能力値となります。吸込口の小さい冷凍機などはこれが低いということになりますので、冷媒の冷却が追いつかず高圧カットを起こしやすくなります。

2-5. 例外的な高圧カット原因

 そのほか例外的な高圧カット発生の原因として、「冷媒への空気の混入」や「室内機内の酷い汚れ」が挙げられます。(どちらもレアなケースです)

 「冷媒への空気の混入」は冷媒に空気(不純物)が混ざることで冷媒がその役割を果たしづらくなり、圧縮機が冷えていないと判断し圧力を際限なく高めることで発生します。
 設置して間もない設備、設備に手を加えたばかりの場合、特段暑い訳でもなく機器がフル稼働する場合は、この可能性を疑ってみてください。

 このケースは運転こそしていても故障の範疇になり、修理が必要です

 次に「室内機内の酷い汚れ」ですが、こちらはエアコン暖房時に限ったケースとなります。
 汚れにより温風が出にくくなり、加熱された冷媒が室内機で利用されずそのまま室外機に戻ってしまうことで発生します。

 それほどの汚れは余り想定できないのですが、心当たりのある場合はクリーニングを行なってみてください。

 ただし業務用空調機の場合、自前でのクリーニングは危険ですし、クリーニングできる範囲にも限りがあります。決して安価ではありませんが、クリーニングを依頼されてください。

室内機のクリーニング

 なおクリーニングはクリーニング専門業者ではなく、空調全般のサービスを担う業者にご依頼することをお勧めします。同時に点検も行なっていただくためです。
{参考:『空調・換気設備|株式会社エスディ・メンテナンス』


 以上を踏まえ、次章では原因①~④までの高圧カット対策法をご紹介します。
 4種類ご紹介しますが、それぞれに長所・短所が存在するため、それを踏まえて検討されてください。

3. 高圧カット・ショートサーキットの対策4選

3-1. 対策(1)導入安価な『散水装置』

 散水装置とはその名の通り室外機の吸込口に水を撒く装置となり、高圧カット対策としては最もポピュラーなオプション機材になります。
 散水によって熱交換器(凝縮器=コンデンサー)周囲の空気や熱交換器自体が冷やされることで冷媒の冷却が促進される仕組みとなり、あらゆるケースの高圧カットを解消します

 空調機メーカー製、サードパーティ製どちらも販売されており、単に散水するだけの安価なものから、自動運転可能なもの(温度や冷媒圧力に応じて散水を行なう)まで幅広い種類があります。
 散水中のみとなりますが省エネ効果もあり、高圧カット対策をメーカーやサービス会社にご相談された場合、恐らく散水装置を勧められるでしょう。

 しかし散水装置は複数の課題も抱えています。

・使用後の水の扱い
・水道料金の発生
・室外機の熱交換器を傷める ※純水使用タイプは除く

 当然ですが使用した水は下へと流れ落ちますので、濡れてOKな現場である必要があります。
 また排水を放置しても良いのかどうか、NGならば処理を考えなければなりません。

 水道料金は散水時間に応じて決まりますので、夏期は24時間散水するような現場はかなりの金額となります。

 そして一番の問題は、水道水内に含まれているカルキ(ミネラル成分)がスケール(堆積物)となり付着してしまうことです。スケールが付着するとフィンのすき間をふさぐため、室外機の熱交換器の能力が落ちてしまいます。
 薬剤を使用してもなかなか落ちませんし、高圧洗浄機で飛ばそうとするとどうしてもフィンが曲がってしまいます。

 本件は別のコラムにてまとめておりますので、お手数ですが詳細はそちらをご覧ください。
{参考:『空調機(エアコン)室外機への導入なら?「散水装置」VS「外付け熱交換器」-空調機・冷機 耳より話 |株式会社SHOTEC』

3-2. 対策(2)水・電気を使用しない『外付け熱交換器』

 外付け熱交換器とは熱交換器を、室外機の外にも追加しようと考案された製品になります。(開発:国立研究開発法人産業技術総合研究所)

外付け熱交換器イメージ

 冷媒と周囲の空気の温度差が小さい場合であっても、熱交換器を増設する=熱交換の機会を増やすことにより高圧カットを解決します。
 散水装置と違い、得意なケース、不得意なケースが存在しますが、室外機側を痛めることがありません。

 そのほか以下の特徴を持ちます。

・省スペース
・静音、排水なし
・ランニングコスト0
・メンテナンスやクリーニング不要
・通年の省エネ効果

 ただし初期コストは散水装置より高額となります。詳しくは下記紹介ページをご覧ください。
{参考:『業務用空調機・冷機向け外付け熱交換器BigCon【株式会社SHOTEC】』

3-3. 対策(3)ショートサーキットなら有効な場合がある『送風機』

 ショートサーキットで排熱が溜まった際は、業務用送風機で押し流し改善することもあります。
 もしくは外部の空気を送り込むこともあります。

 ただ多くの場合、空気を自在に移動させることは困難なため、やってみないとわからないことが多いです。
 対策4種類の中では最も安価です。

3-4. 対策(4)資金に余裕があるなら『ハイパワー機への交換』

 逆に現在より能力の高い製品に乗り換えることでも解決の可能性はあります。
 空調機・冷機にはハイパワータイプという猛暑時も間断なく正常運転することを謳った製品も存在するため、そもそも買い換えも検討していたという場合は一番シンプルな高圧カット対策になります。

 ただし室外機の大型化は避けられず、配管の交換も迫られる可能性があります。またショートサーキットは解決できない可能性があることをご承知おきください。

4. 高圧カット・ショートサーキットへの対策まとめ

4-1. 事情に合わせた対策を

 最後に高圧カットやショートサーキットの対策を下表にまとめましたので、ご参考にされてください。後は予算や現場の環境などが判断材料になるかと思います。

高圧カットへの対策まとめ

 

 長くなりましたがご覧いただきありがとうございました。ご不明な点などございましたら、お問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします

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