1. 散水装置
1-1. 空調機・冷機のオプション機材とは
業務用空調機(エアコン)や冷機(冷凍機・冷蔵機)には、「機器の弱点を補う」「機器の性能を伸ばす」手段としてオプション機材が開発されています。
本コラムでは複数あるオプション機材の中で、高圧カット対策や省エネとして用いられることの多い散水装置をまず取り上げ、競合品である外付け熱交換器と比較します。
散水装置と外付け熱交換器、どちらも高圧カット対策・省エネに効果を発揮します。
ただし価格や導入のしやすさ、省エネの期間、副産物などに違いがあります。
そこで散水装置、外付け熱交換器それぞれのメリット・デメリットを本コラムにてご紹介します。
それぞれを状況によって使い分けていただけたら幸いです。
1-2. 散水装置の基本事項
散水装置とはノズル(放水口)、送水管、タイマーなどから構成された文字通り散水するための装置になり、室外機上部から室外機の吸込口(室外機内に周囲の空気を取り入れる場所)に向けて散水します。
吸込口には黒い網のようなものが取り付けられており、これは熱交換器=凝縮器=コンデンサーと呼ばれる部品になります。
夏場は水温が気温より低くなるためこれを利用し、熱交換器=凝縮器=コンデンサーを冷やしています。
熱交換器=凝縮器=コンデンサーを冷やすことで、高圧カット対策(ピークカットや高圧圧力異常とも)や省エネといった効果をもたらしますが、この現象を解説するためには冷房運転・冷凍冷蔵運転について少し説明が必要です。
空調機・冷機では室内機と室外機の間を冷媒が循環しています。
冷媒は熱の運搬役を担っており、冷房運転・冷凍冷蔵運転においては室内機で熱を受け取り、受け取った熱を室外機にて放出しています。
この熱の受け取りや放出は熱交換と呼ばれ、その役割を果たす機材を熱交換器(空冷式)と呼びます。
空調機・冷機の室内機と室外機のいずれにも熱交換器が備わっています。
熱交換器は折り畳まれた配管と放熱フィンで構成されています。(フィン同士の間には空気の通り抜ける隙間があります)
熱交換器(空冷式)の配管内を物質が通過する際は、熱交換器周囲の空気との間で熱の移動が行なわれる(温度の高い方から低い方へと熱が移動する)ため、物質の冷却や加熱のために利用されます。
(内部を冷却するための熱交換器を凝縮器やコンデンサー、内部を加熱するための熱交換器を蒸発器とも呼びます)
室内機内の熱交換器(蒸発器)では熱交換器内を通過する冷媒よりも室内機内の空気の方が温度が高いため、室内機内の空気の熱は冷媒へと移り、室内機内の冷やされた空気はファンにより外に送り出されます。
室外機の熱交換器(凝縮器、コンデンサー)では室外機内へと取り込まれる空気よりも熱交換器内を通過する冷媒の方が温度が高いため、冷媒の熱が空気に移り、室外機内のファンでその排熱を外に吹き出しています。
ところが室外機熱交換器での熱の放出、すなわち冷媒の冷却にはある程度限界があります。
例えば室外機周辺が高温の場合、冷媒の温度と室外機内へと取り込まれる空気との温度の差が縮まるため、熱交換は進まなくなります。
冷媒の冷却が不十分となると熱の運搬に支障が出るため、機器は室外機から室内機へと向かう冷媒への圧力=高圧圧力を高めます。
これは冷媒が圧力が高いほど熱の運搬能力が増すという性質を持つためです。
ただし高められる高圧圧力には限界があります。
設備の設計上危険な圧力に達したとき、機器は異常停止(強制停止)します。これが高圧カットの仕組みです。(本件の詳細は下記コラムもご参照ください)
{参考:『夏場は要注意!空調機(エアコン)・冷機の高圧カット対策4選-空調機・冷機 耳より話 |株式会社SHOTEC』}
また冷媒に圧力を掛けている部品は圧縮機ですが、圧縮機が空調機・冷凍機の消費電力の大半を占めています。
冷媒への圧力を高めるということは、その分消費電力も増大します。したがって高圧圧力を抑制して運転させることは省エネにも繋がります。
【冷媒を冷却する→高圧圧力が下がる→高圧カット防止や省エネ】
散水により熱交換器周囲の空気が冷やされることで、冷媒を冷却するものが散水装置です。
1-3. 散水装置のメリット
散水装置のメリットは以下の三点になります。
①導入コストが安価
②メーカー、サービス会社が熟知
③高圧カットに十分な実績
まず①導入コストが安価という点が最大の魅力でしょう。
散水装置は様々な商品がありますが、タイマー付きの製品(時間や温度により自動で散水を開始~停止する)であっても外付け熱交換器より安価となります。
ただしこれらは導入コストであり、ランニングコストを含めると話は変わってくる場合があります。(詳細は次章)
次に②メーカー、サービス会社が熟知しているという点は安心出来る材料です。
言い換えると、メーカー、サービス会社の担当者は高圧カット対策として散水装置を勧めるでしょう。
この理由は幾つかあり、散水装置に慣れている、導入コストが外付け熱交換器よりも安いので勧めやすい、外付け熱交換器を知らない、メンテナンスや保守など追加の契約に至りやすい(散水装置は手間を要するため)などが挙げられます。
また散水装置には③高圧カットに十分な実績があることも事実ですので、期待される役割は相応に果たしてくれます。
1-4. 散水装置のデメリット
逆に散水装置を導入するデメリットとしては以下が挙げられます。順にお話しします。
①排水処理
②フィンの汚れ・劣化
③水道料金(水道水使用の場合)
まず散水装置は当然水を使用しますので、散水した後の水の始末、①排水処理が必要となります。(水栓も必要です)
排水処理を行なわない場合、周囲の汚れやコケの発生に繋がるだけでなく、設置場所によっては建物を傷める、公道に漏れ出すことも起こり得ますので、ご注意ください。
次に②フィンの汚れ・劣化ですが、水道水にはミネラル成分が含まれており、散水を続けているとそれがスケール(堆積物)となって熱交換器(コンデンサー)のフィンに付着してしまいます。(純水タイプの散水装置も販売されていますが水道水を濾過するために電気を使用します)
下図の白い部分がスケールです。
スケールが付着した熱交換器(コンデンサー)は散水による温度低下効果が減衰してしまいますし、更に付着すると上手く熱交換できなくなり(フィンが熱を逃がしてくれず)、それが高圧カットを助長してしまうこともあります。
そのため散水装置を使用する場合はこまめなクリーニングが不可欠ですが、このスケールは石のようなものですので、フィンと垂直に高圧洗浄を当てたとしてもフィンが傷付いてしまいます。
そうなってしまうと熱交換の性能は下がりますので、熱交換器の交換が早期に必要となる傾向にあります。(井戸水や地下水を使用する場合は特にその傾向が強くなります)
そして水道水を使用する場合は当然③水道料金も発生します。軽度の高圧カットであれば散水は一時的ですが、ショートサーキット(室外機の排熱の再吸入)の傾向が強い現場では夏期は毎日朝から晩まで散水することもあります。
(室外機周辺温度が外気温に対して明らかに高い場合、ショートサーキットを疑います)
2. 外付け熱交換器
2-1. 外付け熱交換器の基本事項
散水装置の競合品として、外付け熱交換器があります。熱交換器は前章で紹介しましたが、この熱交換器を外部に追加するオプション機材が外付け熱交換器となります。
散水装置が熱交換器周囲の空気を冷やして熱交換を進めるならば、外付け熱交換器は熱交換の表面積を増やす(熱交換の機会を増やす)ことで熱交換を進めます。
外付け熱交換器は冷媒を冷却させるという点で散水装置と同じですが、そのアプローチが異なります。
以降ではこの外付け熱交換器のメリット・デメリットをお話しします。
2-2. 外付け熱交換器のメリット
外付け熱交換器を導入するメリットは以下が挙げられます。順にお話しします。
①ランニングコストなし
②通年の省エネ効果
③ロケーション不問
外付け熱交換器は①ランニングコストなしでご使用いただけます。これは水も電気も使用しないためです。
クリーニングやメンテナンスも不要なため、導入後は一切お金と手間が掛からない商品と言えます。(粉塵などが発生する環境であれば定期的に放水で洗浄してください)
また外付け熱交換器は年間を通して働くため、②通年の省エネ効果をもたらします。(散水装置は稼働時のみ)
外付け熱交換器における春・秋・冬の省エネ効果は大きい数字ではありませんが、年単位となるとそれなりの数字になります。
{参考:『外付け熱交換器『BigCon』省エネシミュレーション|株式会社SHOTEC』}
また水も電気も使用しないため、③ロケーション不問でご使用いただける点も強みです。
水NGの現場は珍しくありませんし、現場の負担も掛かりません。(室外機の熱交換器を痛めることもありません)
2-3. 外付け熱交換器のデメリット
逆に外付け熱交換器を導入するデメリットは以下が挙げられます。
①散水装置よりも導入コストが高額
②購入時のメーカー保証は失効
③ショートサーキット対策は注文の付く場合があり
外付け熱交換器は導入時に配管工事が必要となるため、①散水装置よりも導入コストが高額となります。
(室外機から室内機へと向かう冷媒配管の途中に外付け熱交換器を経由させます)
詳細は以下をご確認ください。
{参考:『業務用空調機・冷機向け外付け熱交換器「BigCon」|株式会社SHOTEC』}
{参考:『外付け熱交換器BigCon資料ダウンロード|株式会社SHOTEC』}
そして配管に手を加える関係から購入時のメーカー保証は失効します。(室外機を改造するわけではありませんが、引き渡し時の状況と異なるためです)
有償修理は引き続き可能ですが、保証期間内の場合はご注意ください。
そして③ショートサーキット対策は注文の付く場合があります。
ショートサーキットの傾向が強い現場では室外機周辺の温度が45℃を超えることもありますが、このようなケースでは外付け熱交換器に加え風向調整などの追加の措置が必要となることがあります。
3. 散水装置VS外付け熱交換器~比較まとめ
3-1. 散水装置をお勧めするケース
これまでの内容を上表にまとめました。散水装置と外付け熱交換器の長短所を踏まえ、お客様自らが状況に応じて使い分けられるとより良い結果に繋がると考えます。
まず散水装置をお勧めするケースを以下にまとめます。
・軽度の高圧カット対策の場合(水OK)
・初期費用をできる限り抑えたい場合
・メーカーやサービス会社の意向を尊重して高圧カットの解決を図る場合
例えば年に2,3回しか異常停止しないケースで、なおかつ水使用OKの現場であれば、コスト面から散水装置を選びたくなります。
また現設備を既に長く使用しており、いつ更新するか分からないので初期費用を抑えたい場合も散水装置に軍配が上がります。
ほかにも現在お付き合いしているサービス会社の意向を尊重するのであれば、散水装置が選択肢として優先されるかと考えます。
3-2. 外付け熱交換器をお勧めするケース
次に外付け熱交換器をお勧めするケースをまとめます。
・室外機設置場所が水NGの場合
・ランニングコストを抑えたい場合、現設備を数年以上使用する予定の場合
・省エネ
まず室外機設置場所が水NGの場合や水源のない場合は、外付け熱交換器を選ぶことになります。
またショートサーキットや重度の高圧カットでは散水量がかなり増えてしまうため、ランニングコストの観点から外付け熱交換器を選ぶことも一考です。
現設備を長く使用する予定の場合も、現設備を痛めないために同様です。
そしてもし省エネ目的で本記事をご覧の場合は、外付け熱交換器のみが選択肢となります。(現設備を痛める散水装置が省エネ機器として不向きのため)
外付け熱交換器の投資回収期間はおよそ3年~4年となります。
{参考:『空調機・冷凍機の省エネ理論とその対策6選-空調機・冷機 耳より話 |株式会社SHOTEC』}
長くなりましたがご覧いただきありがとうございました。ご不明な点などございましたら、お問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします。